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2013/01/27

世界劇場化装置


「洋服があれば世界は劇場になる」がコンセプトのファッションブランド、シアタープロダクツが昨年秋からスタートさせたプロジェクト「THEATER, yours」。
このプロジェクトはspring/summer collection 2013で発表した数種類の型紙と生地を使って、参加者自身が服やバッグといったアイテムを制作、展示するというもの。
モノのロングユースへの意識の向上。
服の新たな価値の発見。
個々人が楽しめるデザインの可能性。
1枚のテキスタイルを自分好みのファッションアイテムに変えるこのプロジェクトは、そうした意識の変化や発見を参加者に与えることを目指しているという。
大量生産・大量消費・大量廃棄型のファスト文化のオルタナティブとして注目されつつあるDIY文化がこのプロジェクトには感じられる。

第1回のワークショップが実施されたのは大阪・北加賀屋(住之江区)で開催されたデザインイベント「DESIGNEAST 03」。

ワークショップではスタッフのサポートのもと、参加者自身がブランドオリジナルの型紙に合わせて生地を裁断し、ミシンを使って縫製し、Tシャツやワンピース、バッグなどに変えていく。
参加者には特性のブランドネームタグがプレゼントされ、プロジェクト名の通り、“あなたの”シアタープロダクツアイテムが制作できるのだ。

ワークショップに参加するには「DESIGNEAST 03」の入場券に別途参加費(一般1,500円で学生1,000円)が必要。
親子(大人1名と小学6年生までの子ども)価格も用意されており、こちらは1,500円に設定されている。
ちなみにこれは事前予約価格で、当日参加の場合はそれぞれ500円がプラスされる。
参加者たちは型紙代(2,400円〜)と生地代(1,000円〜/1m、オリジナル生地5,000/1m ※制作するアイテムによって変わってはくるが、生地は平均して13m程度使用)を購入し、作業に取りかかる。
DESIGNEAST 03」では140名が参加し、好評を博したという。

2回目となる東京でのワークショップは「メルセデス・ベンツ・ファッションウィーク」に合わせて、渋谷ヒカリエCreative Lounge MOV実施された。
大阪とは異なり、会期中(3日間)毎日2回、12時間ずつ、各回定員4名限定で実施された東京会場では予約で即日sold outとなったようだ。
東京でこれだけ参加人数に制限がかけられたのには理由がある。
というのも、東京の参加者たちはテキスタイルをデザインすることがメインのワークだからだ。

制作するアイテムはTシャツやワンピースなど、全16パターンの中から選択可能で、参加者たちは自分の作りたいアイテムに応じた料金(5,880円〜16,800円)を支払う。
型が決まったら、スタッフにソフトの使いかたを教わりながら、テキスタイルのデザイン開始。

デザインといっても、まったくの0からのデザインではない。
用意されたベースとなる柄を選択し、配置を決めたり、あるいは柄を重ねたり。
デザイナーがデザインしたドットや花のモチーフ、ネームタグなどもデザイン素材として使用できる。
アイデア次第で幾通りものデザインが可能で、そうした組み合わせのなかから、自分だけのオリジナルテキスタイルのデータを作成していくのだ。
このデザインプロセスはNIKEiDをイメージすると分かりやすいかもしれない。

そして約2週間後、自分が作成したデータをもとにインクジェットプリントされたテキスタイルと説明書が届くのだ。
そのテキスタイルを自分で裁断・縫製して、自分だけの1着を作り上げることができる。

ちなみに、このワークショップで販売される型紙には、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス「表示−非営利2.1CC BY-NC 2.1)」が付与されているので、原作者のクレジットを表示し、なおかつ非営利目的であれば、改変し再配布したりすることができる。

デザイナーの武内昭氏は話す。

「多くの人が、既製服を日常的に着ているが、食事に例えるなら、出来上がった食事をレストランで毎日食べているようなもの。そうではなく、レシピ(型紙)や素材(布)から作ってみることで、服のよりいろんな楽しみ方が見えてくる」

人には自分が創造に手を貸したと感じる製品を、そうではない製品よりも、高く評価する傾向があると言われている。
これを「イケア効果」や「メイカーズ・プレミアム」というそうだが、「THEATER, yours」にはまさしくこの効果が発揮されることになる。

別に「◯◯を作ろう!」型のワークショップは珍しくとも何ともない。
万華鏡に竹とんぼといったおもちゃ作りは以前からあるし、キャンドル作りややコスメ作りも人気がある。
料理系のワークショップも多いし、フォトブックやzine作りも最近増えてきてる印象。
確かにこれらのワークショップも面白いけど、「短時間・低価格」で出来てしまうものがほとんどで、クオリティもそれほど高いものではない場合が多いように思う。
料理やコスメといったものは、口や肌に合えば、長く付き合えるけど、プロダクトとなるとロングユースはあまり期待できない。
一方、「THEATER, yours」は「長時間・高価格(?)」で、デザーナーズブランドの型紙と生地が使えるのでデザイン性も高くクオリティも高い。
「ロングライフデザイン」という言葉があるけど、時間の経過を感じさせないデザイン性の高さと時間が経過しても壊れない、あるいは修復可能なクオリティの高さを備えたものは、長く愛用できる。
THEATER, yours」では自分で裁断・裁縫を行うので、そのプロセスでクオリティが落ちてしまうこともあるけど、自分で作ったのだから、いくらでも自分で直すこともできる。

ファストファッションを否定するわけではないけど、服とのこうした関わり方がもっと広まってもいいように思う。
「買う」「使う」だけじゃなく、「作る」「リペアする」という関わり方はなにも服に限ったことではない。
受動的ではなく、主体的にクリエイションに関わっていく姿勢。
あるいは文化。
オープン・ソース文化やファブラボやデスクトップ・ファブリケーションが浸透・普及すれば、「DIYDo It Yourself)」や「DIWODo It With Others)」といった価値観も同時に広まることになるんだろうな。

THEATER, yours」のTumblrには「季節単位で終わるのではなく、継続的なプロジェクトとして育てて、さまざまな試みをする予定です。『THEATER, yours』は、あなたものであり、わたしたちのものであり、参加者みなさんのものです。個々の形で育っていってほしいと願っています。」というメッセージが掲載されている。
もし機会があれば参加してみてはどうだろう。

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