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2013/10/07

オープンガヴァメント(2)

オープンガヴァメント(1)では行政のイケてないSNSの活用方法について書いたけど、今回は行政のイケてるIT活用方法についてアメリカの事例を紹介しようと思う。


ティム・オライリーという人が提唱した概念に「ガバメント2.0」がある。
これは簡単に言うと、ICTを使って市民に政策決定や公共サービス、まちづくりに参加してもらおうという試みのこと。
その根底には、市民の英知をICTによって吸い上げたり、つなげたり、あるいは活用することによって、効率的な行政運営を実現させようという思想がある。
この「ガバメント2.0」が新たな潮流として、現在、世界中で広がりを見せている。

例えば、アメリカ東海岸のフィラデルフィア市。
この市では市民と行政の間に大きな溝がありました。
そのため、市民の声が政策決定の場に届かず、行政は市民の声を反映した政策を打ち出せない。
その結果、行政に対する市民の不信感が高まり、不満は募る一方でした。
この悪循環を断ち切ったのが、「meet Textizen」というアプリケーション。
仕組みはいたってシンプル。
「この路線で、あなたは買い物をしますか?」
「自転車の利用を増やすにはどうしたらいいですか?」
トロリーバスの車体や歩道の掲示板などをメディアとして、行政から市民に質問が問いかけられます。
市民はその問いかけにショートメッセージで回答するというもの。

市はこれまでタウンミーティングを開いて市民の声に耳を傾けてきたが、予算も時間も限られていることから頻繁には開催できず、また多くの市民から意見を聞くことはできなかったのだけど、このアプリを導入してからは、それが一変。
集会を開かずとも多くの市民の声をキャッチすることができ、行政と市民の関係性が変わったそうだ。
タウンミーティングとなると場所のセッティングにも手間がかかるし、予算や時間、参加人数にも制限があるけど、このアプリを使えば、隙間時間なんかにも気軽に行政に自分の意見を届けることができる。

Philly 311」というアプリもある。
こちらは市民からの苦情や要望を24時間受け付けるというもの。
道路や公共施設の破損、ごみの不法投棄、壁への落書き
街にはそうした問題が溢れているけど、行政が街のそうした状況をすべて把握するには無理がある。
Philly 311」は市民の力を借りることでそれを可能にするアプリ。
市民は問題だと感じる現場の写真に位置情報を添えて行政に送信するだけ。
市民からの情報は行政に集約され、PCの地図上にリアルタイムに反映される。
すると、そうした情報を頼りに担当部局の人間が対処にあたって一件落着。
まあ実際はそんなにスムーズかつスマートにいかない場合がほとんどだとは思うけどね。

行政側としたら、現場の様子が写真で視覚的に把握でき、位置情報があるため住所確認の必要もないので、そうした問題に一つひとつ電話で対応するよりも効率的。
市民としても、電話で待たされたりもたらい回しにされたりもしないので、無駄にカロリーを消費しなくて済む。

このアプリは大型ハリケーンが街を襲った時にその威力を発揮したそうだ。
瞬間的に打撃を受けたため、行政は街の状況がいまいち把握できないでいたんだけど、このアプリを通じて、市民から多くの情報が寄せられたことで、行政は素早く復旧作業に当たれたみたい。

Change By Us」はよりよいまちづくりのためのアイデアを市民に書き込んでもらうアプリ。
まちづくりの現場では、市民に集まってもらって、ポストイットなんかにまちづくりのためのアイデアを書いてもらうワークショップをやったりするけど、このアプリはその作業をウェブ上でやってしまおうというもの。
このアプリの良い所は単にアイデアを出すだけではなく、それぞれのアイデアから具体的な行動につなげることも可能だという点にある。
アプリに求めていることを書き込めば、行政だけでなく、他の市民が手を差し伸べてくれるのだ。
Philly 311」同様、このアプリもハリケーンなどの災害時に効力を発揮した。
「ストーブと燃料が欲しい!」「水が足りない!」
被災した人がアプリで声を上げれば、それに応えられる人が反応し、物資を送ったりしてくれるってわけ。
こんなことが本当に可能なのか?機能するのか?と疑問に思われる人もいるかと思うけど、東日本大震災を思い返してみてほしい。
声さえ届けば、お金も支援物資も人手も技術も才能も、災害時に必要なものは思いの外集まる。
NEED(求めていること)とCAN(出来ること)をうまくマッチングさせる。
そんなプラットフォームとしての機能をこのアプリは内包している。

心臓発作を起こした人がいると、その情報が現場から400m以内にいる人に知らされる「Pulse Point」というものもある。
これはカリフォルニア州の消防署が始めたもので、今や新たな救命救急のネットワークとして注目されている。
心臓発作は発症から1分経過するごとに、生存率が10%減ると言われており、初期対応が生死を別ける。
このアプリは救急隊員が到着するまでの時間に、近くにいる人がAEDなどを用いて初期対応に当たれるようにするもので、全米でおよそ100の地域で使われ、5万が登録しているという。
特別な訓練を受けていない人でも、救急車の誘導や担架での運搬など、現場で自分ができることを自分のできる範囲で行うことで救命活動に参加できる。


ボストンでは毎年、冬になると消火栓が雪で埋もれてしまい、使い物にならないという問題があった。
役所が全ての消火栓を除雪し、管理するのは大変。
第一そんな時間もお金もない。
そこで開発されたのが「ADOPT A HYDRANT」というアプリ。
雪かきをしたらその消火栓に名前をつけられ、消火栓の“里親”になれるというものだ。
早いもの勝ちなのでゲーム性もあり、市民に受け入れられているのだそう。
このアイデアをベースに、他の都市でも津波警報や排水溝、歩道の除雪などのバリエーションも生まれている。


以上、アメリカの事例を見てきたが、アメリカには「ガバメント2.0」をバックアップするスタートアップや団体が数多く存在する。
そのひとつにCode for America」という非営利団体があるのだが、オープンガヴァメント(3)の話題はその団体。




2013/10/04

中山の郷



小豆島の中央、山間に中山の郷はある。
オリーブバスを春日神社で下車。
眼前には山肌一面の棚田が広がる。
南北朝の時代から歴史とともに田を重ねてきたこの棚田は、「千枚田」と呼ばれており、「日本の棚田百選」にも選出されているそうだ。
こんな景色、「日本むかし話」でも見たことがない。


田水が空の青を映し出す、春。
瑞々しい稲が揺らぐ、夏。
黄金の絨毯が広がる、秋。
霜が煌めく、冬。
どの季節を切り取っても美しいのだろうな。
「千枚田」は見る人を詩人にさせる。



この郷では300年もの歴史ある伝統行事や伝承芸能が今なお続いている。
夏には豊作を願い、松明をもって畦道を練り歩く「虫送り」。
秋には五穀豊穣の奉納歌舞伎「中村農村歌舞伎」。
中村の郷は「日本の原風景」という言葉がよく似合う。

瀬戸芸の会期外でしかも平日だったこともあり、周りに観光客らしい人影は見当たらない。
農作業をする音。草木が揺れる音。秋虫の鳴く音。
そこかしこからヒーリング・ミュージックが聴こえてくる。



おばあさんが小さな背中を丸めて農作業をしている。
「こんにちは!」と声をかけると、返ってきた言葉がこれ。
「一人か?寂しいな」
リターンエースを決められたかのような気持ちになったが、周りの風景に心を鎮めて会話を続ける。
30分くらい話しただろうか。
色々と教えてくれた。

中村の郷は離島で中山間地域。
少子高齢化と人口流出に伴う人口減少が先鋭的に進んでいる。
就農者は減り続けるが、反対に手がつけられなくなった田は増え続ける一方。
後継者も育っておらず、新規就農者もいない。
その話を聞いて辺りを見回せば、所々荒れている田んぼがある。
今は集落のみんなで所有権に関係なく、出来る限りの田を耕しているとのことだけど、今後、「千枚田」の耕作放棄地が増加していくのはまず間違いなさそうだ。
「日本の棚田百選」があるくらだから、こうした状況は中村の郷に限った話ではないのかもしれない。

「それは哀しい!」そう言えば、「じゃあ来い!」とおばあさん。
「横浜から移住してきた夫婦もいるぞ!」「歌舞伎に出られるぞ!」
やり手の営業ウーマンみたいに言葉巧みな誘い文句を立て続けに浴びせてくる。
心を揺さぶられながらも「移住は今すぐにはでないけど、また来ます」と応えると、
「そしたら、来週がええ。ちょうど歌舞伎があるからの」と食い気味レスポンス。
「歌舞伎は観たいけど、来週は予定があるから・・・来年来ます!」
「じゃあその時は弁当作ってやる。髪の長い人と一緒だったらな」
そう言ってにやり微笑むおばあさん。

歌舞伎の日には、みんなが弁当とお酒を持って集まるのが習わしで、地元の人と観光客がお酒を酌み交わす光景も珍しくないそうだ。
来週末もきっとそんな光景が見られるのだろう。
来週はその場にいられないのが本当に残念で仕方ないんだけど、来年は行こうと思う。
もちろん「髪の長い人」を連れて。
そのときまでこの約束を覚えてくれてるといいな。