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2012/12/30

レストランデイ


ヘルシンキ(フィンランド)には町中がレストランに変わる日がある。
それも3カ月に1度。
レストランデイ」と呼ばれるその日は、誰でもどこでも、1日だけレストランをオープンすることが許されるのだ。

自宅やオフィスといったプライベートな空間はもちろん、公園や水辺といったパブリックスペースに自分のお店をオープンさせることもできる。
ブティックに花屋さん、ランジェリーショップなど、普段は食品を提供していないお店も、その日に限ってレストランが併設されるんだとか。
ホームパーティースタイル、ピクニックスタイル、はたまた屋台スタイル。
町にはあらゆるスタイルのレストランが溢れ、今夏の「レストランデイ」にはおよそ360軒ものレストランがポップアップしたのだそう。

窓やベランダやストリート、町のいたるところから美味しそうな香りが漂ってくるこの日を楽しみにしている市民も多く、今や「レストランデイ」はヘルシンキのイベント・カレンダーに外せないイベントとして定着しているんだって。

前文の表現から察しのいい人は気づいたかもしれないけど、「レストランデイ」の歴史は思いの外、浅い。
ヘルシンキで初めて開催されたのは、なんと20115月。
それにもかかわらず、ヘルシンキのみならず、欧米を中心に世界中にムーヴメントとして広がりを見せている。

「食」は生活の基本のひとつ。
基本であるからこそ、人びとの「食」への意識は高い。
ファストフードのワールドワイドな広まりに対する危機感からスローフードの動きが生まれたのもそうだし、食の安心性・安全性への意識の高まりから食品のトレーサビリティの取り組みが強化されたり、市民農園が同時多発的に生まれたりしたのもそう。
食料自給率の低下から地産地消志向が高まっているのも、環境問題との関わりからフード・マイレージやヴァーチャル・ウォーターといった概念が登場したのも人びとの反応の結果だと言える。
人びとに「食」について考えるきっかけを与えるカーニバルとして誕生した「レストランデイ」。
世界的ムーヴメントとして広がりを見せているのは、「食」への意識が世界共通だからなのかもしれない。

「レストランデイ」は自由意志と責任に基づいて開催される。
どこにお店を出してもいいし、お店のスタイルも、何を提供するかも基本的には自由。
販売してもいいし、投げ銭制にしてもいいし、お金をもらわない、つまり無料でサーブするのもあり。
すべての裁量は“レストラン”の“オーナー”に委ねられている。
でも、自由には責任が伴うもの。
法律的な問題であったり、商品の衛星環境など、「もしも」の事態が起こった時に責任をとるのはオーナー。
だから“レストラン”は誰かに迷惑をかけたり、オーナーたち自身が困ったことにならないよう運営には気をつけなければならない。
これなら“レストラン”を開く人たちは、「食」について深く考えざるをえないよね。

責任は伴うものの、そのスタイルは自由とあって、どの“レストラン”も“オーナー”の趣味や志向が反映されていて面白い。
お手製のスタンドを自分たちでデコレーションして、手作りのマフィンやキッシュを販売する仲良しグループ。
ディスクジョッキーさながら、60年代のロックのレコードをかけながらハンバーガーを販売するオヤジ。
ハンドメイドのカップやお皿でお菓子やコーヒーを提供するデザイン系の学生たち。
古いおもちゃとワッフルやジャムを交換してくれるお店があったり、お手製のスコーンとコーヒー、紅茶を無料で提供しているブースがあったりと、それぞれ趣向を凝らして、1日だけのカーニバルを存分に楽しんでいるそうだ。

腕によりをかけて準備した料理は誰だって美味しく食べてもらいたいもの。
温かいものは温かいうちに、冷たいものは冷たいうちに。
オーナーたちは提供するものの温度をどう維持するかにも頭を悩ませます。
屋外の場合、どこから電源を持ってくるかも大事な問題。
その他にも、提供する量であったり、天候の変化にも考慮して計画は進めなくてはならない。
各自、可能な範囲でお客さんに最高の体験を提供しようと模索する。
オープンまでのプロセスも非日常なわけだから、楽しかったりするんだよね。
なんだか学園祭の模擬店みたい。
あなたならどんな“レストラン”をオープンする?

「レストランデイ」にお店を出店する手続きはいたってシンプル。
オフィシャルサイトの登録ページから、レストランの詳細情報(レストラン名、場所、開店時間、提供予定数、連絡先etc.)を入力するだけ。
登録が完了すれば、「レストランデイ」のウェブサイトとスマートフォンアプリのマップ上にレストラン情報が反映される。
お店を出さない人も、こうした情報を頼りに“レストラン”巡りを楽しむことができる。

実は、東京でも今年8月から「レストランデイ」が開催されている。
しかし日本では食品衛生法や資格等、一般の方がレストランとして食品を提供することに関して、超えなければならないハードルがいくつもある。
公園や海辺で火を使うことが禁じられている場合も多く、場所の確保も難しい。
そんな背景もあり、またオーガナイザーの「ゆるく」始めていこうとする意向もあって、第1回「レストランデイ東京」は8店舗からスタート。
11月には第2回も開催され、今後草の根的に展開していくことに期待したい。
本来、「レストランデイ」の開催日は25811月の年4回がスタンダードだけど、東京ではその他イベントが多いことを理由に春と秋の年2回の開催になるのだそう。
先述の通り、日本では開催にあたってクリアしなければいけない課題も多いけど、日本なりのやり方を模索して、東京以外の都市でも開催されるようになればいいよね。
「レストランデイ」の精神は自由意志と責任。
できないことはないはず。
空の下で地域の人と一緒に会話と「食」を楽しむ。
そのことを通じて、「食」について考えたり、地域の未来について議論したり。
市民のシビックプライドの強化にもつながると思う。
「レストランデイ」はお金以外の「儲け」が多いカーニバル。
次回の開催は2013217日。
東京では開催されない予定だけど、世界各地で同時開催されるので、興味のある方は「レストランデイ」のFacebookページをチェックしてみてください。

2012/11/12

渋谷はるのおがわプレーパーク


代々木公園西門の向かいに「はるのおがわコミュニティパーク」というのがあるらしい。
その園内にある「渋谷はるのおがわプレーパーク」は、渋谷区内で利用率12位を争う人気の公園なのだそうだ。

人気の秘密は公園内にある小さな看板にあらわれている。
そこに書かれている文章がコレ。

ここは「自分の責任で自由に遊ぶ」公園です。
子どもたちが「やってみたい!」を最大限
カタチにするチャンスのある遊び場です。
子どもたちが自由に遊ぶためには
「事故は自分の責任」という考え方が基本です。
地域のおとなたちと渋谷区が協力してこのプレーパークをつくっています。
こわれているところをみつけたり困ったことがあったら
プレーリーダーやスタッフに伝えてください。
渋谷区はるのおがわプレーパーク

そう、「渋谷はるのおがわプレーパーク」は「自己責任」で「やってみたい!」が叶えられる公園なのだ。
それこそが人気の秘密。
木登り、穴掘り、焚き火に焼き芋、農作業
多くの公園で禁止されているようなことでも、「自己責任」でなんでもできちゃう。
遊び方、使い方が委ねられているので、子どもたちは自分のクリエイティビティを存分に発揮することができる。
遊具も既存のものを使わず、子どもたちの発想やニーズに応じて、その都度、プレーリーダーやボランティアスタッフと一緒にDIY
これまでアスレチックジムやツリーハウス、ウォータースライダーといったものまで作っちゃってるというから、そのクリエイティビティには驚くばかり。
流しそうめんやパン作りなど、親子で楽しめるイベントも開催されるので、リピート率も高いのだとか。

「渋谷はるのおがわプレーパーク」のように、遊びを「禁止」するのではなく、遊びを「つくる」形式の公園を「プレーパーク」というのだそう。
特定非営利活動法人日本冒険遊び場づくり協会が全国のプレーパークに関する情報を収集・発信し、また設置推進に向けた活動を行っているので、興味のある方は是非サイトをチェックしてみてください。

「渋谷はるのおがわプレーパーク」は地域住民が作った「渋谷の遊び場を考える会」が渋谷区から委託を受け運営している。
開園時間は午前10時から午後5時まで(木曜日は休園)。
開園時間にはプレーリーダーやボランティアスタッフが常駐し、子どもたちに遊びをサポートする。
それ以外の時間帯は入園禁止。

「渋谷はるのおがわプレーパーク」の仕掛け人である渋谷区議のハセベケンさんはこう語る。

「行政は、窓口に来る少数の苦情に、全て対応するのが基本になってるでしょ。しかし、それでは、公園の禁止事項はどんどん増え、何も遊べなくなってしまう。実際は、子どもがケガをしても区のせいにしないと思っている人は多いんです。そういった、窓口に来ないサイレントピ—プルに対するマーケティングができていないから行政は偏ったものになっていく。やっていることがカッコイイことじゃないから。そこで、そういう人たちが、グッとくる公園を作ろうと思ったわけ」

公園内の芝生に入ることすら許されず、木登りやボール遊びもできない。
火遊びなんてもってのほか。
最近そんな公園は少なくない。
こうした状況が増えているのは、公園の管理側が生活者のクレームに対応してきたからなのかもしれない。
その結果、一部の人にとっては「安心・安全」な公園にはなったかもしれないが、マジョリティであるサイレントピ—プルにとっては「安心・安全」でも、どこか「もの足りない」公園になってしまったのだろう。
その「もの足りない」ニーズに応えたのが「渋谷はるのおがわプレーパーク」というわけだ。
その利用率の高さが、マジョリティのニーズに合致した公園である証拠。

「渋谷はるのおがわプレーパーク」ができてもう8年になるそうだ。
こうした常設のプレーパークのニーズは渋谷区に限らないはず。
それにも関わらずプレーパークの数は多いとは言えず、常設のプレーパークはわずかしかないのが現状。
しかし最近では、設置に向けて動き出している地域も増えてきているようなので、これからの広がりに期待したい。

■特定非営利活動法人日本冒険遊び場づくり協会:http://www.ipa-japan.org/asobiba/

アオーレ長岡


新潟県長岡市は市役所に問題があった。
役所の人間が云々という問題は長岡市に限らず、日本全国の自治体が抱えている問題だけど、長岡市の場合はそうしたヒューマンリソースのみならず、市役所というハード自体に問題があったのだ。
それがこれ。

(1)長岡市役所の本庁組織が地方分権や合併などに伴う業務の拡大のために、市内7カ所に分散し、不便な状況になっている。
(2)災害時の防災拠点となる本庁舎の耐震性が、国が定める基準の6割程度しかない。

こうした状況から、長岡市では「市役所どうする?」問題があったのだそう。
そのため、長岡市は「行政機能再配置検討市民委員会」「意見交換会」「市政懇談会」などを設けて、市民の意見の聴取に積極的に取り組むなどして、さまざまな観点から検討を重ねてきたそうだ。
長岡市が抱える課題の解決のためには、市役所の中心市街地への移転が最も効果的なソリューションである。
検討の末、そのような結論に至り、20072月の市議会にて本庁舎の中心市街地への移転が正式に決定。

そうして201241日にオープンしたのが、シティホールプラザ「アオーレ長岡」。
設計したのは日本を代表する建築家の隈研吾さんなんだって。
「常に何か楽しいイベントをやっていて、用事がなくてもぶらりと立ち寄ってしまう。そんなまちのにぎわいの発信地でありたい」
そんな想いから生まれたのが、「生活の温もりと人びとのにぎわいにあふれた『まちの“中土間(ナカドマ)”』」というコンセプト。
オープン以来、そのコンセプト通り、「あらゆる世代の多様で自発的な活動を実現する場として、また、市民活動の『ハレの場』として、誰もが憩い集う『市民交流の拠点』」として活用されているのだとか。

「アオーレ長岡」はJR長岡駅と直結しており、駐車スペースも申し分ない。
地下駐車場に103台分、市営駐車場と提携駐車場を合わせるとキャパシティは1500台分。
環境にも配慮して自然エネルギーを積極的に活用できる造り。
耐震性は基準の1.25倍の強度を誇る。
当初の予定通り「アオーレ長岡」はJR長岡駅前という中心市街地に建設されたわけだが、市役所を中心市街地に移転する場合、通常は出ない国の補助金を受けることができるとのこと。
また、住民参加型市場公募地方債「アオーレ長岡市民債」を発行することで、建設費の15億円分の資金を調達したそうだ。

「アオーレ長岡」の特徴は、なんといっても「アリーナ」「ナカドマ」「市役所」が一体となっているところ。
市役所機能と「アリーナ」や「ナカドマ」(全天候型の広場)といった施設が一体となったのは、全国初のことなのだそうだ。
バスケットボールコート3面分の広さを持ち、座席数最大4200席の「アリーナ」では、プロスポーツのゲームやコンサート、講演会など多目的に活用でき、さらにナカドマと接する壁面を開放することもできるという。
日本建築の土間の概念を取り入れて作られた「ナカドマ」は、誰でも立ち寄ることができ、屋根があるので、天候問わず、さまざまなイベントに使うことができる。
市民団体の発表の場としてはもちろん、結婚式やミニライブ、300インチの大型モニターが設置されているので、パブリックビューイングも可能。
コンビニやカフェも併設され、また移動販売車や屋台も自由に出店することもできるので、全国から地酒や地ビール、B級グルメなどを集めてきて大規模なイベントの開催にも最適と言える。
市役所にも市民の疑問解消に最大限サポートする「市役所コンシェルジュ」新たに配置し、「たらい回しのない」「日本一便利で分かりやすい!」役所を目指しているそうだ。
なんとも頼もしいかぎりである。

「アオーレ長岡」はオープンに先立ち、2011年にプロモーション映像を作っている。
アートディレクションを担当したのは、ミスチルやゆずのアートワークでおなじみの森本千絵さん。
森本千絵さんと約100人の市民がワークショップ形式で一緒になって企画・出演している。
その映像がコチラ↓

振り付けはおそらくコンドルズの近藤良平さん。
映ってるしね、多分そうだと思う。
ちなみに隈研吾さんも、森本千絵さんも映ってるから気になる人は探してみてください。
補足で言えば、NHK連続テレビ小説「てっぱん」のオープニングで話題となった「てっぱんダンス」も森本さんと近藤さんが手がけたもの。
このプロモーション映像はナカドマの300インチディスプレイでも随時上映しているそうだ。
このプロモーション映像の作成にかかわった市民にとっては、なんかこれだけでこの場所に誇りと愛着みたいなのが湧く気がする。

「アオーレ長岡」はソリューション。
市役所機能の分散と防災拠点としての耐震強度の問題という「いま」の課題だけではなく、「これから」の課題に対する解決策として誕生したはず。
「アオーレ長岡」が「市役所」「アリーナ」「ナカドマ」の3つの機能を持って生まれたのは、「これから」の課題にも対応できるフレキシビリティを考えられてのことだと思う。
少子化、高齢化、人口減少問題に中心市街地の衰退
長岡市に限らず、日本全国の地方都市が「これから」取り組まなくてはならない課題は山のようにある。
長岡市は「これから」のまちづくりをこのように考えている。
「新しい長岡のまちづくりには、市民と市役所がともに考え、ともに取り組むことが必要。これこそが「市民との協働」です」
その拠点として、そのシンボルとして誕生したのが「アオーレ長岡」というわけだ。
全国初の機能を備えた新しいハードのポテンシャルを長岡市(民)がどう引き出すか。
ハードとソフトのベストミックスに期待したい。

■アオーレ長岡:http://www.city.nagaoka.niigata.jp/ao-re/