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2013/05/08

観光から関係へ <後編>


<後編>では「観光から関係へ」シフトしていくとき、どんな役割が求められていくかについて考えてみたい。

これまで、「COMMUNITY TRAVEL GUIDE」、瀬戸内国際芸術祭の「こえび隊」、家島の「島パッケージワークショップ」を例に、「観光から関係へ」という言葉について考えてきたけど、これらの事例から分かることは「人との関係が、土地との関係を生んでいく」ということなのかもしれない。
「家」「職場」の他に第三の居場所としてのサードプレイスが欲しいって人や、拠点を複数もつマルチハビテーションというライフスタイルに関心を寄せる人。
IターンやUターンをしようと思っている人たちが増加傾向にあるのも、「観光から関係へ」という価値観のシフトと無関係ではないように思う。
そしてこの価値観は、成熟した日本ではますます広まっていくような気がしている。

この変化は、現在、観光地として認識されていない地域にとってはチャンスかもしれない。
たとえ分かりやすい観光資源に恵まれておらず、メディアに取り上げられることがない地域であっても、関係の糸口さえ提供できれば、まちの「関係者」を増やすことができるから。
「関係者」は「観光客」と違い、その土地について気にかけてくれるし、何度も訪れてくれる。
もしかしたら、マルチハビテーションとして拠点のひとつに選んでくれたり、IUターン者として土地に根付いてくれるかもしれない。
着地型観光なんて言葉があるけど、人に訪ねて来てもらいたい地域の人たちが、都市部の人たちに向けて関係づくりを促進させるようなプログララムやアクティビティを提案していくことで、「関係者」を増やすことができるんじゃないかな。
それは地域をいかに「ブランディング」していくか、ということだと言い換えることができるかもしれない。
こうフレーミングしてみると、これからのまちづくりの発想というのは、プロスポーツクラブのブランディングや企業のブランディングが多少なりとも参考になることが分かる。
それらの研究は、具体的な施策だけでなく、ソーシャルメディアの活用などに関しても、示唆に富んだものになるような気がする。

問題はいかにして、関係の糸口を提供するか。
アートプロジェクトというのもひとつだけど、これを実施するにはクリアしなくてはならない障壁も多い。
そんな大規模のものでなくても、もっと障壁の少ないやり方もある。
「場」を起点にプログラムを考えるのもそのひとつ。
図書館や美術館といった公共の施設は、かつては受動型施設だったけど、モノや作品を制作するワークショップを開催したり、運営に関わるボランティアを募ったりと、近頃は来場者が主体的に関わることができるプログラムが増えてきているし、Fablabなどの市民工房も人が集まる拠点としての機能は高い。
そうした「場」を中心に、人が「関係」をもてるプログラムを開発して、実施していくことで「場」や「土地」の関係者を増やしていくことができると思う。
そして、その拠点の概念を「場」から「まち」に広げていくことでまた別のプログラムに派生させていくことができる。
たとえば、田舎暮らしの「日常」は、都市部で生活する人にとっては「非日常」なのだから、都市部の人向けに「日常」を体験してもらえるプログラムを用意するのもいい。
最近、都市近郊で貸し農園が増えてきているけど、農業や漁業、林業なんかも充分プログラムになりえる。
ホテルや旅館がなくたって、民宿や民家で代用できる。
欧米ではベッドと朝食を提供するだけの低価格の宿泊施設としてBB(ベッド&ブレックファスト)というのがあるけど、お手軽に田舎らしさを味わえるという点で受け入れられるかもしれない。
COMMUNITY TRAVEL GUIDE」のように「人」を全面に押し出すのもいいんじゃないだろうか。
なんと言っても、人は資源に違いないから。
そして、そういう地域の人と知り合いになったり、友だちになるなど、「関係」を築くことが出来れば、その地域を気にかけたり、繰り返し訪ねてくれたりする可能性も高い。

単に観光資源を消費するのではなく、関係づくりを促進させるようなプログラムは日本各地で開発され、実施されてきていると思うけど、こうしたプログラムで重要な役割を果たすのがコーディネーター的な存在。
こえび隊であれば事務局の人やベテランこえび隊員がその役割を担い、家島の場合、それにあたるのは「いえしまコンシェルジュ」。
図書館の司書や美術館のキュレーター、Fablabのマスターもその役割を担っていると思う。
内輪感が高いところに人は入りたいとは思えないもの。
閉鎖性の高さは外の人をげんなりさせるには充分すぎる要因になる。
だから、そうならない、そうさせないためにも、状況を把握し、人あるいは場がより本領を発揮できるように空間を切り盛りしたり、コミュニティが築きやすいように誘導したり、そういうファシリテーションしていけるかどうかが、関係に重きを置く価値観の中では、鍵になる能力なんじゃないかな。

確かに中山間や離島は、成熟社会としての課題、人口減少や少子高齢化問題、産業構造の転換等に端を発する社会的な課題に、都市部よりも先行して直面している。
でも、その解決に向けた動きの中で必要となってくる能力や発想は、都市部から学ぶべきことが多いように思う。
ブランディングやマーケティング、広報に宣伝、それからファシリテーション。
企業や団体がこれまで積み重ねてきたグッドプラクティスは、中山間や離島のまちづくりにずいぶんと応用することができるはず。
都市部でそうした職種に携わっている人の中にも、自分のスキルをボランティアで発揮したいという人は最近増えてきているという。
そういったプロボノしたいという人とまちをマッチングする団体もあるし、そうしたクリエイティブな人材を巻き込んだり、引き寄せたりすることで、「観光地」にはなれなくても、「関係地」になれる可能性は充分あると思う。
「型破り」は「型」があるからできること、なんていう言葉を聞いたことがあるけど、都市部の「型」をフレーミングしなおすことで、中山間や離島でも応用が効くってことなんだと思う。
「観光から関係へ」、そのとき都市で蓄積されてきた消費を促す仕組みが参考になるというのは、なんだか興味深い。
「観光から関係へ」、そのときどんな人がどんなスキルを使って、どのようにまちを変えていくのか。
そのあたりに注目しながら、まちを眺めていると、これからのまちづくりのヒントが得られるかもしれない。

Fablab

観光から関係へ <中編>


<前編>では、地域と関係を持つことで観光とは違った地域の魅力を味わえるし、「観光から関係へ」とパラダイムシフトも起こりつつあるんじゃないかなっていうことを書いたけど、<中編>ではその具体例を挙げてみたいと思う。

まずは社会的な課題の解決を目指すissuedesignが昨年から始めているプロジェクト「COMMUNITY TRAVEL GUIDE」という取り組み。
これは「名所めぐりから『名人めぐり』へ」というコンセプトのもと、人々との出会いを楽しむ旅行ガイドブックを制作するというプロジェクト。

COMMUNITY TRAVEL GUIDE」の説明としてissuedesignは「史跡・自然・宿・土産物等を見学・消費するだけでなく、地域の人との出会いや交流を楽しむ、新しい旅のスタイルを提案します」と言っているけど、言葉通り、このガイドブックでは地域の主役を「人」と捉えていて、本の中では数多くの地元民にスポットライトがあてられているという過去に類を見ない編集内容となっている。
ユニークな個性を持っている人、町のキーマン、おもしろい取り組みをしている人
どこへ行っても魅力的な人というのは必ずいる。
そういう人をピックップして紹介するこのガイドブックは、従来型のガイドブックが「観光のまなざし」を提供するものであるとすれば、「関係の糸口」を提供するものと言えるんじゃないかな。
これまでに『海士人』と『福井人』の2冊が刊行されており、好評を博しているみたい。
『福井人』の制作にあたっては、その資金調達にクラウドファンディングが用いられ、目標金額100万円のところ、達成金額はなんと170万円オーバー。
支援者は福井に住む人や出身者だけじゃなくて、この取り組みに共感した人も少なからずいるのだそう。
また「COMMUNITY TRAVEL GUIDE」のシリーズ第3弾として、北は岩手県宮古市から南は宮城県石巻市までの三陸海岸を舞台に『三陸人』の制作が決まっている。
このシリーズの刊行によって、「地域の人との出会いや交流を楽しむ、新しい旅のスタイル」が増えてきているのかどうなのか、本当のところは分からないけど、クラウドファンディングの結果からも、次々とシリーズを重ねて行くことからも、この「COMMUNITY TRAVEL GUIDE」が多くの人から共感と賛同を得ている企画だと言うことは分かる。
ここからも「観光」から「関係」へという価値観の転換が、これからの地域観光に可能性もたらすんじゃないかという思いにさせてくれる。

最近、全国各地でアートプロジェクトが興隆しているけど、そのほとんどがボランティアスタッフを募っているよね?
瀬戸内国際芸術祭なら「こえび隊」、越後妻有大地の芸術祭なら「こへび隊」、混浴温泉世界なら「ばんだいさん」というふうに。
それに参加する人の中には、純粋に「アートが好き」って人もいるだろうし、「リタイアして時間に余裕ができた」って人もいるだろうし、「地域を盛り上げたい」と思っている人など、参加する理由もモチベーションもいろいろだとは思うけど、「関係者」になりたいと思って参加する層も少なからずいる気がする。
規模が大きいそういったプロジェクトに参加することは、地域の「関係者」になる良いきかっけになるからね。

アートプロジェクトの規模にもよるけど、広域圏で開催されるもののボランティアには、開催地域の人だけでなく、遠方からの参加もあると聞く。
どの地域からどれだけの人がボランティアとして登録し、どれくらい活動したのか、そうしたデータは公表されていないので、詳しいことは分からないけれど。
たとえば瀬戸芸のこえび隊の場合、ホームページからの募集に加えて、広報と説明会も兼ねた「こえびミーティング」という交流イベントを開催して、そこでも募集活動を行っている。
開催場所は、瀬戸内の中枢都市である高松や岡山、アクセスのいい大阪、そして瀬戸内から少々距離のある東京。
こえび隊の活動は1日から参加できるし、無料で泊まれる「こえび寮」も用意されているので、遠方からの参加に対するバックアップの体制も整っていると言える。
なので、住んでいるところからは離れていても瀬戸芸に関わりたいって人にも参加しやすい。
そうしてボランティア活動に参加すれば、そこから「関係」が始まるってことも多いはず。
こえび隊として地域で活動するといことは、プロジェクトの「関係者」になるということだし、アーティストや事務局あるいは地域の人との「関係」が生まれるかもしれない。
ボランティア仲間との「関係」もできる。
また、こえび隊の一員として活動をすることで、土地に対する心理的距離も近まり、土地との「関係」も生まれる。

ここでは割愛するけど、地元民にとっても地元との「関係」を(再)構築するのに、こうした活動はもってこいのはず。
ともあれ、アートプロジェクトなどのボランティア活動に遠方からの参加もあるということからも、「観光」から「関係」への価値観の転換を感じるのだけどどうだろう。

姫路市の沖合にある家島でたびたび開催されている「島パッケージワークショップ」も、参加者に島との「関係」を持ってもらおうという想いが伺える内容のものとなっている。
家島はもともと採石業と近海漁業で栄えた豊かな島。
それが産業構造の転換や人口減少や少子高齢化を背景に、徐々に活力を失いつつあって
日本中の中山間地域や離島で問題になっているように、家島もその例に漏れず、課題が顕在化してきている。
以来、住民や役場、コミュニティデザイナーなどが家島の今後のまちづくりについて考えていく中から生まれたプログラムのひとつがこの「島パッケージワークショップ」。
このプログラムは、家島の特産品のパッケージデザインをプロの講師にレクチャーを受けながら、参加者が考えるというもの。
講師は回によって異なるんだけど、「まちづくりプランナー」や「カメラマン」、「グラフィックデザイナー」、「コラージュアーティスト」、「コピーライター」といった職種の人たちがこれまで講師として迎えられている。

プログラムの内容はと言うと、だいたいこんな感じ。
参加者たちが島に着くと、島の案内人「いえしまコンシェルジュ」が出迎えてくれ、ワークショップ会場に移動する道すがら、まずはみんなで島あるき。
実際に島の住民たちと触れ合ったり、島の史跡や生活を見て回る中から、歴史や文化、風習などを学んでいく。
お腹をすかした状態で会場につくと、今度は島のおばちゃんたちがお昼ご飯を用意して待っていてくれる。
メニューは近海で採れた魚介類を使った海鮮丼。
お昼をいただいた後、いよいよワークショップが始まる。
参加者たちは講師による講習会を受けてから、お昼までに五感を通じてインプットした島の情報をパッケージに落とし込んでいく作業を行っていく。
煮詰まれば、講師の先生にアドバイスを仰いだり、コンシェルジュや島の住民の方たちにヒアリングを行ったり。
そうしながらパッケージデザインを完成させていく。

以上のような流れで進められる「島パッケージワークショップ」。
日帰りの回もあれば、1泊する回もあるのだけど、少人数制のワークショップということもあり、島の人との距離が非常に近い。
気になったことはどんどん質問できるし、島を知り尽くしている住民の皆さんはどんな質問にも答えてくれる。
ワークショップを通じてコミュニケーションを重ねていくことによって、島から帰るときには、島のおばちゃんやコンシェルジュとすっかり友だちになっている参加者も多い。
ワークショッププログラムで家島の住民や生活に直に接して家島ファンになった人が、家島を再訪するなどの動きもあり、それほど観光資源に恵まれない家島であるのにもかかわらず、そのときにできた「関係」がきっかけとなり、家島との持続的な「関係」が生まれてきつつある。
この家島の例も、「観光から関係へ」のシフトを感じさせてくれる事例のひとつと言えると思う。

これまで「観光から関係へ」のシフトに関する具体的な事例をみてきたわけだけど、<後編>では「観光から関係へ」シフトしていくとき、どんな役割が求められていくかについて考えてみたい。

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issuedesign
COMMUNITY TRAVEL GUIDE
海士人
福井人
瀬戸内国際芸術祭
越後妻有大地の芸術祭
混浴温泉世界
いえしまコンシェルジュ


観光から関係へ <前編>


観光から関係へ

先日からTwitterで流れてきたこの言葉が頭を離れない。
ただ、誰がどんな文脈でツイートしたものなのかは覚えてなくて
言葉のバックボーンは分からないくせに、その鮮烈な印象だけがずっと頭に残っていたもんだから、気になって検索してみた。
そしたらどうやら、「瀬戸内国際芸術祭2013/小豆島・醤の里+坂手港プロジェクト」のコンセプトワードだということが分かった。
31日にはスタンダードブックストア(大阪・心斎橋)で、『観光から関係へ——日本は深化する—— 春編 小豆島・醤の里+坂手プロジェクト in 瀬戸内国際芸術祭2013』というイベントも開催されていたようだ。
出演していたのは、椿昇さん、ヤノベケンジさん、服部滋樹さん、家成俊勝さん、原田祐馬さん、多田智美さんの6人。
このプロジェクトの中心人物がフルラインアップされていたようだ。
コンセプトワードの余韻にしばらく浸ってしまうくらいだから、確実に楽しめたイベントだったに違いないのに
行かなかったのが悔やまれる。

名所をめぐるだけの一度限りの『観光』ではなく、
人と人とが出会うことで生まれる『関係』にこそ、
真の豊かさへのヒントがあるのではないでしょうか?
—— 瀬戸内国際芸術祭2013 小豆島 醤の里+坂手港プロジェクト ——

これはプロジェクトのウェブサイトに載っている言葉。
やっぱりすごく共感するし、この言葉はこれからの地域観光の可能性を提示している言葉なんじゃないかとも思う。

イベントでどんな話がなされ、小豆島の会場でどんなプロジェクトが展開されているのか。
聞いてないし、見てもないので、本当のところは分からないけど、これから3回に別けて、「観光から関係へ」という言葉について考えてみたいと思う。

これまでの観光は、読んで字のごとく、光を観に行くことだった。
光っていうのはちょっと抽象的過ぎるから説明すると、要はメディアによってスポットライトがあてられているところ(つまりは観光地)へ実際に足を運んでみること。
風光明媚な場所や、歴史のある名所旧跡。
そうしたところを訪ねては、その地の美味しいものを飲んだり、食べたり、あるいは温泉につかったり。
「観光」という言葉を聞いて多くの人が想起する通り、これが「観光」のステレオタイプだと思う。

イギリスの社会学者、J.アーリが「観光のまなざし」について論じているけど、生活者である僕たちは、ガイドブックをはじめ、テレビや新聞、雑誌やラジオ、ウェブなどといったメディアによって、観光地の見方を内面化しているところがある。
どこにどんなモノがあって、そこは何が有名なのか。
どんなコースで回れば簡単に充実感を得られるのか。
メディアでは必要最小努力で最大効果が得られるようなプランが提示され、コースが紹介される。
そんなわけで、意図的にであれ、知らず知らずのうちにであれ、僕たちはその地に足を運ぶ前から、観光地についてかなり多くの情報を取得している。

消費行動モデルを説明する用語のひとつにAISASというのがある。
Attention(注意)を惹きつけられ、それでInterest(興味)を持てば、Search(検索)して情報収集。それから消費のためのAction(行動)を起こして、そのレビューをみんなとShare(共有)する。
これがAISASの意味する行動形式で、それぞれのステップの頭文字をとってAISASってわけ。
比較的に高額な商品や、長く使う商品、あるいは化粧品や薬などといった商品を消費する際には、このモデルが当てはまるとされていて、観光はまさにAISASタイプの消費行動と言えると思う。

事前に情報を収集してから出かける観光で、一体、僕たちは何をしているのだろう?
もちろんそれは観光なわけだけど、やっぱり光を観ているだけなのかもしれない。
繰り返しになるけど、観光地はメディアによって光をあてられたところ。
逆にメディアによってスポットライトをあてられないところは、観光地ではない。
それはちょっと言い過ぎかもしれないけど、多くの人に認識されていない土地は、観光地として認識されることはないから、「行ってみよう」と思われることもない。
メディアに取り上げられる観光地なんて氷山の一角に過ぎないのに、そんな場所にばかり人と視線が集まり、その他の多くの地域は人の目に触れない水面下に沈んだまま。
そう考えてみると、事前に情報を収集してから行く観光は、メディアから間接的に得た情報を、自分の身体で確かめにいくようなもので、少々ひねくれた表現ではあるけど、メディア(というカタログ)から提供される(観光地という)記号を集めて回るミーハーなコレクターなんじゃないかと思えてくる。
そして一度確かめたら満足してしまい、「前に行ったからもういいや。また別の知らない土地へ行こう」と思う人も少なくないんじゃないだろうか。
それはなんだか使い捨て消費の感覚にも似ていて、もったいないような気がする。

観光は文句無しに楽しい。
観光を否定するつもりもない。
観光をすることで観光地も潤うし、観光客も満足する。
そう言う意味では確かにwin-winなのかもしれない。
でもメディアから提供される記号を集めて回るようなタイプの観光のあり方は、一過性で持続可能性に欠いている気がして、なんだか違和感がある。
余暇は時間もお金も限られているし、好奇心の赴くままに、いろいろな地域を観光してまわるのももちろん素敵な体験だと思うけど、特定の地域に何度も足を運び、深く関わることで得られる体験も魅力的だと思う。
どっちを好むかは価値観の問題だし、別にどっちかひとつに絞らなきゃいけないなんてこともないんだけど。
ただ、メディアに取り上げられていない地域にも観光資源はあるし、観光地であっても、メディアに載っているところだけが全てじゃないっていうことだけは確か。
それに、季節によっても、訪れる年齢によっても、あるいは訪れた回数によっても、見える表情が変わるってことも。

同じ地域を何度も訪れることで、見ることができる絶景。
同じ地域を何度も訪れることで、味わえる隠れた名品。
同じ地域を何度も訪れることで、出会えることができる人。
その地域の「当たり前」という日常に埋没したお宝を発掘するには、やっぱり一度限りの観光では難しいと思う。
観光地に観光しに行く人は、その地域の人からは「よそ者」なわけで、「よそ者」向けに用意された、いわゆる観光地化されたものだけにしか目に入らず、それに満足しているだけなのかもしれない。
「よそ者」から離脱しないと、いつまでたっても「観光のまなざし」に支配されたままなんじゃないだろうか。
そうならないためには、地域と「関係」すること以外に方法はないように思う。
つまりそれは、「観光客」ではなく「関係者」になるということ。
「よそ者」として観光するのも楽しいけど、手間も時間もかけて「関係者」になることで、「観光客」では味わえない豊かな体験を得ることが出来る。
そのことに多くの人が気づいているし、同時に「観光客」ではなく「関係者」になりたいと思う人も増えてきているように思う。
<中編>では、その具体例を挙げてみる。

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