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2013/10/04

中山の郷



小豆島の中央、山間に中山の郷はある。
オリーブバスを春日神社で下車。
眼前には山肌一面の棚田が広がる。
南北朝の時代から歴史とともに田を重ねてきたこの棚田は、「千枚田」と呼ばれており、「日本の棚田百選」にも選出されているそうだ。
こんな景色、「日本むかし話」でも見たことがない。


田水が空の青を映し出す、春。
瑞々しい稲が揺らぐ、夏。
黄金の絨毯が広がる、秋。
霜が煌めく、冬。
どの季節を切り取っても美しいのだろうな。
「千枚田」は見る人を詩人にさせる。



この郷では300年もの歴史ある伝統行事や伝承芸能が今なお続いている。
夏には豊作を願い、松明をもって畦道を練り歩く「虫送り」。
秋には五穀豊穣の奉納歌舞伎「中村農村歌舞伎」。
中村の郷は「日本の原風景」という言葉がよく似合う。

瀬戸芸の会期外でしかも平日だったこともあり、周りに観光客らしい人影は見当たらない。
農作業をする音。草木が揺れる音。秋虫の鳴く音。
そこかしこからヒーリング・ミュージックが聴こえてくる。



おばあさんが小さな背中を丸めて農作業をしている。
「こんにちは!」と声をかけると、返ってきた言葉がこれ。
「一人か?寂しいな」
リターンエースを決められたかのような気持ちになったが、周りの風景に心を鎮めて会話を続ける。
30分くらい話しただろうか。
色々と教えてくれた。

中村の郷は離島で中山間地域。
少子高齢化と人口流出に伴う人口減少が先鋭的に進んでいる。
就農者は減り続けるが、反対に手がつけられなくなった田は増え続ける一方。
後継者も育っておらず、新規就農者もいない。
その話を聞いて辺りを見回せば、所々荒れている田んぼがある。
今は集落のみんなで所有権に関係なく、出来る限りの田を耕しているとのことだけど、今後、「千枚田」の耕作放棄地が増加していくのはまず間違いなさそうだ。
「日本の棚田百選」があるくらだから、こうした状況は中村の郷に限った話ではないのかもしれない。

「それは哀しい!」そう言えば、「じゃあ来い!」とおばあさん。
「横浜から移住してきた夫婦もいるぞ!」「歌舞伎に出られるぞ!」
やり手の営業ウーマンみたいに言葉巧みな誘い文句を立て続けに浴びせてくる。
心を揺さぶられながらも「移住は今すぐにはでないけど、また来ます」と応えると、
「そしたら、来週がええ。ちょうど歌舞伎があるからの」と食い気味レスポンス。
「歌舞伎は観たいけど、来週は予定があるから・・・来年来ます!」
「じゃあその時は弁当作ってやる。髪の長い人と一緒だったらな」
そう言ってにやり微笑むおばあさん。

歌舞伎の日には、みんなが弁当とお酒を持って集まるのが習わしで、地元の人と観光客がお酒を酌み交わす光景も珍しくないそうだ。
来週末もきっとそんな光景が見られるのだろう。
来週はその場にいられないのが本当に残念で仕方ないんだけど、来年は行こうと思う。
もちろん「髪の長い人」を連れて。
そのときまでこの約束を覚えてくれてるといいな。



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