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2013/05/08

観光から関係へ <中編>


<前編>では、地域と関係を持つことで観光とは違った地域の魅力を味わえるし、「観光から関係へ」とパラダイムシフトも起こりつつあるんじゃないかなっていうことを書いたけど、<中編>ではその具体例を挙げてみたいと思う。

まずは社会的な課題の解決を目指すissuedesignが昨年から始めているプロジェクト「COMMUNITY TRAVEL GUIDE」という取り組み。
これは「名所めぐりから『名人めぐり』へ」というコンセプトのもと、人々との出会いを楽しむ旅行ガイドブックを制作するというプロジェクト。

COMMUNITY TRAVEL GUIDE」の説明としてissuedesignは「史跡・自然・宿・土産物等を見学・消費するだけでなく、地域の人との出会いや交流を楽しむ、新しい旅のスタイルを提案します」と言っているけど、言葉通り、このガイドブックでは地域の主役を「人」と捉えていて、本の中では数多くの地元民にスポットライトがあてられているという過去に類を見ない編集内容となっている。
ユニークな個性を持っている人、町のキーマン、おもしろい取り組みをしている人
どこへ行っても魅力的な人というのは必ずいる。
そういう人をピックップして紹介するこのガイドブックは、従来型のガイドブックが「観光のまなざし」を提供するものであるとすれば、「関係の糸口」を提供するものと言えるんじゃないかな。
これまでに『海士人』と『福井人』の2冊が刊行されており、好評を博しているみたい。
『福井人』の制作にあたっては、その資金調達にクラウドファンディングが用いられ、目標金額100万円のところ、達成金額はなんと170万円オーバー。
支援者は福井に住む人や出身者だけじゃなくて、この取り組みに共感した人も少なからずいるのだそう。
また「COMMUNITY TRAVEL GUIDE」のシリーズ第3弾として、北は岩手県宮古市から南は宮城県石巻市までの三陸海岸を舞台に『三陸人』の制作が決まっている。
このシリーズの刊行によって、「地域の人との出会いや交流を楽しむ、新しい旅のスタイル」が増えてきているのかどうなのか、本当のところは分からないけど、クラウドファンディングの結果からも、次々とシリーズを重ねて行くことからも、この「COMMUNITY TRAVEL GUIDE」が多くの人から共感と賛同を得ている企画だと言うことは分かる。
ここからも「観光」から「関係」へという価値観の転換が、これからの地域観光に可能性もたらすんじゃないかという思いにさせてくれる。

最近、全国各地でアートプロジェクトが興隆しているけど、そのほとんどがボランティアスタッフを募っているよね?
瀬戸内国際芸術祭なら「こえび隊」、越後妻有大地の芸術祭なら「こへび隊」、混浴温泉世界なら「ばんだいさん」というふうに。
それに参加する人の中には、純粋に「アートが好き」って人もいるだろうし、「リタイアして時間に余裕ができた」って人もいるだろうし、「地域を盛り上げたい」と思っている人など、参加する理由もモチベーションもいろいろだとは思うけど、「関係者」になりたいと思って参加する層も少なからずいる気がする。
規模が大きいそういったプロジェクトに参加することは、地域の「関係者」になる良いきかっけになるからね。

アートプロジェクトの規模にもよるけど、広域圏で開催されるもののボランティアには、開催地域の人だけでなく、遠方からの参加もあると聞く。
どの地域からどれだけの人がボランティアとして登録し、どれくらい活動したのか、そうしたデータは公表されていないので、詳しいことは分からないけれど。
たとえば瀬戸芸のこえび隊の場合、ホームページからの募集に加えて、広報と説明会も兼ねた「こえびミーティング」という交流イベントを開催して、そこでも募集活動を行っている。
開催場所は、瀬戸内の中枢都市である高松や岡山、アクセスのいい大阪、そして瀬戸内から少々距離のある東京。
こえび隊の活動は1日から参加できるし、無料で泊まれる「こえび寮」も用意されているので、遠方からの参加に対するバックアップの体制も整っていると言える。
なので、住んでいるところからは離れていても瀬戸芸に関わりたいって人にも参加しやすい。
そうしてボランティア活動に参加すれば、そこから「関係」が始まるってことも多いはず。
こえび隊として地域で活動するといことは、プロジェクトの「関係者」になるということだし、アーティストや事務局あるいは地域の人との「関係」が生まれるかもしれない。
ボランティア仲間との「関係」もできる。
また、こえび隊の一員として活動をすることで、土地に対する心理的距離も近まり、土地との「関係」も生まれる。

ここでは割愛するけど、地元民にとっても地元との「関係」を(再)構築するのに、こうした活動はもってこいのはず。
ともあれ、アートプロジェクトなどのボランティア活動に遠方からの参加もあるということからも、「観光」から「関係」への価値観の転換を感じるのだけどどうだろう。

姫路市の沖合にある家島でたびたび開催されている「島パッケージワークショップ」も、参加者に島との「関係」を持ってもらおうという想いが伺える内容のものとなっている。
家島はもともと採石業と近海漁業で栄えた豊かな島。
それが産業構造の転換や人口減少や少子高齢化を背景に、徐々に活力を失いつつあって
日本中の中山間地域や離島で問題になっているように、家島もその例に漏れず、課題が顕在化してきている。
以来、住民や役場、コミュニティデザイナーなどが家島の今後のまちづくりについて考えていく中から生まれたプログラムのひとつがこの「島パッケージワークショップ」。
このプログラムは、家島の特産品のパッケージデザインをプロの講師にレクチャーを受けながら、参加者が考えるというもの。
講師は回によって異なるんだけど、「まちづくりプランナー」や「カメラマン」、「グラフィックデザイナー」、「コラージュアーティスト」、「コピーライター」といった職種の人たちがこれまで講師として迎えられている。

プログラムの内容はと言うと、だいたいこんな感じ。
参加者たちが島に着くと、島の案内人「いえしまコンシェルジュ」が出迎えてくれ、ワークショップ会場に移動する道すがら、まずはみんなで島あるき。
実際に島の住民たちと触れ合ったり、島の史跡や生活を見て回る中から、歴史や文化、風習などを学んでいく。
お腹をすかした状態で会場につくと、今度は島のおばちゃんたちがお昼ご飯を用意して待っていてくれる。
メニューは近海で採れた魚介類を使った海鮮丼。
お昼をいただいた後、いよいよワークショップが始まる。
参加者たちは講師による講習会を受けてから、お昼までに五感を通じてインプットした島の情報をパッケージに落とし込んでいく作業を行っていく。
煮詰まれば、講師の先生にアドバイスを仰いだり、コンシェルジュや島の住民の方たちにヒアリングを行ったり。
そうしながらパッケージデザインを完成させていく。

以上のような流れで進められる「島パッケージワークショップ」。
日帰りの回もあれば、1泊する回もあるのだけど、少人数制のワークショップということもあり、島の人との距離が非常に近い。
気になったことはどんどん質問できるし、島を知り尽くしている住民の皆さんはどんな質問にも答えてくれる。
ワークショップを通じてコミュニケーションを重ねていくことによって、島から帰るときには、島のおばちゃんやコンシェルジュとすっかり友だちになっている参加者も多い。
ワークショッププログラムで家島の住民や生活に直に接して家島ファンになった人が、家島を再訪するなどの動きもあり、それほど観光資源に恵まれない家島であるのにもかかわらず、そのときにできた「関係」がきっかけとなり、家島との持続的な「関係」が生まれてきつつある。
この家島の例も、「観光から関係へ」のシフトを感じさせてくれる事例のひとつと言えると思う。

これまで「観光から関係へ」のシフトに関する具体的な事例をみてきたわけだけど、<後編>では「観光から関係へ」シフトしていくとき、どんな役割が求められていくかについて考えてみたい。

前編>へ                              <後編>へ

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